SPECIAL CARE STORY お仕事の中にある物語 心と心は、いつもつながっている。
あるご利用者さまが、教えてくれました。

SPECIAL CARE STORYお仕事の中にある物語

そのご利用者さまは、
いつも私たちを癒してくれた。

たとえ自分が悩んでいても、落ち込んでいても、ご利用者様には常に笑顔で接すること。それが、この仕事の鉄則です。暗い顔や深刻な表情で、ご利用者様にご不安を与えてしまうことなどあってはなりません。ですが私は一度だけ、そのタブーをおかしてしまったことがありました。思い出すたびに反省の気持ちが湧きあがる、でも同時に、あたたかな気持ちが湧いてくる…。あの出来事は、今も私にとって、かけがえのないモチベーションリソースになっています。

未経験から入職して、最初に志したのは『訪問介護』の道でした。常に一対一でご利用者様と向き合える訪問介護。住み慣れたご自宅で、最も素顔に近い状態のご利用者様に寄り添える点に魅力を感じ、キャリアのスタート地点に選んだのです。

Aさんとの出会いは、入職2年目を迎えた頃のこと。既におひとりで歩くことなどが難しく、娘さんがメインで介護をされていました。ですが、お仕事の関係で24時間の付き添いは難しく、日中はケアワーカーの力を借りたい

というご相談を受けたのです。娘さんのご不在時間は1日10時間前後。介護保険サービスのルール上、ケアワーカーが訪問できるのは1日2時間までで、訪問と訪問の間には2時間の間隔をあけなくてはなりません。限られた条件の中で最大限のサポートを行うために、まずは5~6名のチームを結成。通常は1日2回/1時間ずつ訪問するところを、1日4回/30分という異例の体制を敷き、きめ細かなケアを行っていくことになりました。

当時、Aさんは認知症の症状が出始めていらっしゃって、時折、ご自身でベッドを出ようとされたのか、私たちがご訪問すると畳の上で転倒されていることがありました。急いでお怪我のないことを確認して、お身体をベッドに戻して差し上げて…。肝を冷やす場面もありましたが、Aさんのお宅にご訪問するのは、私にとって日々の楽しみのひとつでした。お言葉は少ないながら、とても大らかで朗らかで、時に冗談をおっしゃって私たちを和ませてくださるAさん。お世話をさせていただく私たちのほうが、いつもその笑顔に癒しをいただいていたのです。

お言葉はなかった。
でも、あたたかな気持ちが伝わって。

ある時、私は、この仕事に就いて以来最大の壁にぶつかりました。仕事でもプライベートでもうまくいかないことが重なり、「この先ずっと、この仕事を続けていけるんだろうか」「自分は、この仕事に向いていないのかもしれない」と、気持ちは落ち込む一方。でも、ご利用者さまの前では明るく振る舞わなければいけないと自分に言い聞かせ、悶々とした日々を送っていたのです。

その日、いつものようにAさんのお宅にお伺いし、いつものように笑顔で声を掛けて、キッチンでお食事の準備を始めました。すると、ふと背中に気配を感じるのです。振り返ると、居室のベッドの中からAさんが私をじっと見つめていらっしゃいました。そして、私と目が合うと、おいでおいでと手招きをなさいました。

「どうしたんですか?」と笑顔で近づいていったところ、Aさんは黙ったままポンポンと、私の頭を撫でてくれたのです。何もおっしゃらずに、ただやさしく、ヨシヨシ、というように。

思わず涙が出そうになりました。私の表情に何か出ていたのか、何か様子が違っていたのか、なぜかは分かりません。でも、Aさんはいつもと違う何かを察して、私を元気づけようとしてくださっている…。ご利用者様にご心配をおかけしてしまい猛省すべきところですが、あたたかなお気持ちが伝わってきて、胸がいっぱいになってしまいました。「私は、この仕事が好きだ」「まだまだ未熟だけど、ご利用者様のためにがんばりたい」。そう思えた瞬間でした。

その後しばらくして、Aさんは永眠されました。看取られた娘さんから「安らかな顔でした」「みなさんのおかげで、最期まで自宅で過ごすことができた。感謝しています」とおっしゃっていただき、寂しさの一方で、とても光栄な気持ちになったことを今でもよく憶えています。Aさんとの出会いがなければ、今の私はありません。あの時いただいた、あたたかな気持ちを胸に、これからもこの仕事を追求し続けていきたいと思っています。

メディケアホームあけぼのⅢ/管理者 介護福祉士・ケアマネジャー 柴田 美和

PROFILE
メディケアホームあけぼのⅢ/管理者
介護福祉士・ケアマネジャー
柴田 美和
2000年、ケアワーカーとして入職し、訪問介護ステーションで6年のキャリアを重ねる。その後、グループホームを経て、住宅型有料老人ホーム『メディケアホームあけぼの』に。現在は管理者として、マネジメントにも携わっている。